大阪市生野区。通称生野。
私には、この生野という街に兄弟分がいる。兄弟の名前は文政(ブンマサ)。年は私より2つ年上の41歳。生野にとどまらず、大阪のアウトロー達の中では文政の名前は広く知れ渡っている。カタにはまることのないそのスタイルは、まさに天衣無縫。バクチと女をこよなく愛し、性格は底抜けに明るく、誰が相手であっても決して物怖じしない。まさに愛すべき男なのである。これから、そんな文政の兄弟について話していくつもりなので、少しの時間お付き合いいただきたい。(沖田臥竜)
■おもな登場人物
文政 いい女とタブバクチを心から愛する、ご存知"生野のブンマサ"。左目は17歳の時に失い、義眼を入れている。相手がどんな大物であろうが、おおむねタメ口で通している。現在は鳥取刑務所でおつとめ中。
バッテツ 文政の右腕。仕事もせず、ケンカに備え常時筋トレしているという通称"ステゴロキング"。190センチの長身から繰り出されるパンチは脅威そのもの。口癖は「あのねあのね兄弟、こいつら全員しばいていい?」
まっちゃん 文政の忠実な舎弟。160センチ55kgという小柄な体格をいかした車上荒しのスペシャリスト。その腕前には大阪中の裏社会からスカウトが来るほどだが、本人は文政に対してだけ、信仰にも近いような絶対的忠誠心を持っている。
ヒカ みどの姉にして、大阪最強とも噂される光合成姉妹の姉のほう。以前、沖田の経営する店で働いていたことがある。優しいけど気分屋で、行動範囲が異常に広い。タレントのスザンヌに面影が似ている。
みど ヒカの妹にして、大阪最強とも噂される光合成姉妹の妹のほう。とにかく気が強く、とにかく怒られるのが大嫌い。文政を呼び捨てにできる、数少ない女性の一人。タレントの北川景子に横顔が似ている。
沖田臥竜
文政の兄弟分。通称"尼のブラザー"。この小説の語り手でもある。
■「したいときには」の巻
東京の兄弟分、Sの兄弟と二人で大阪拘置所に座る文政に面会へと行った時の話だ。
彼の面会時間は、通常の未決囚とは異なり、異様に長い。面会の立会につく専門官が仮に「もう、そろそろええかなっ」などと言おうものなら、
「おいこらハナクソ、何話の腰おっとんねん。オドレの腰おったろかいっ!」
と彼ならいいかねないし、実際やりかねないので、そんな野暮ったいことを刑務官も言ったりはしないのだ。
その時も、そうだった。通常の面会時間などゆうにオーバーしていたのだが、文政節はフルスロットル。一向に終わる気配もなく、ブンブンゆわしていた。
そこに、暗い影など微塵もなかった。
3人の会話の隙間に生まれた空白を合図に、そろそろ席を立つタイミングとなったことを私もSの兄弟も感じながら、腰を浮かせかけた時だった。今まで、底抜けに明るい笑顔だった文政の表情が一瞬硬くなり、空白を埋めるように口を開いた。……続きは…