■はじめに
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日本は古来から多宗教の国である。神道と仏教が融合し、その宗派・信仰対象は雑多に分かれている。節句や七五三、地鎮祭などには氏子として神道の儀式をえらび、死にさいしては檀家として仏教寺院に葬儀・法要を営んでもらう。明治維新の廃仏毀釈、敗戦による国家神道の否定によって今では分散的になっているが、かつては神仏習合として渾然一体となっていたという。
その一方で、信仰の唯一性をもとめる法華宗やキリスト教も排除することなく、日本人は受容してきた。そして数多くの教派神道や新進仏教、キリスト教の諸宗派、イスラム寺院――――。
逆に言えば、このように雑多な宗教が乱立する日本は、いわば無宗教の国でもある。何となく神社で祈願をしたり、仏教寺院に先祖のお墓参りをしたり、教会で結婚式をおこなう人も多い。クリスマスにハロウィーンを、節会と同じようにイベント化する。そこには信仰心と呼べるものはないだろう。
したがって、日々の礼拝を欠かさないイスラム教、欧米世界と「文明の対立」を引き起こすイスラム世界を、とうてい理解することができない。日本ムスリム協会によれば、在日ムスリム(イスラム教徒)は10万人いるとされているにもかかわらず、である。
そんな日本国内にも、イスラム教を信仰するムスリムの日本人青年は少なくない。名前は安室サラムさん(洗礼名 25歳 接客業 ※データは2015年秋のインタビュー当時のもの)外見は小柄な優しそうな青年だが、洗練された隙のない表情、研ぎ澄まされた肉体は、まさに宗教家の風貌だ。
安室さんの所属する『ダールルハック』は、2012年に神の霊示を受けた宮内春樹氏によって設立された。日本におけるイスラムの布教と帰依者の相互扶助、および切磋琢磨のコミュニティーを目指す団体だという。
私の知る日本で有名なムスリムといえば、イスラム法学者で元同志社大学客員教授の中田考氏である。中田氏とイスラム諸国のムスリムとのつながりは本当に深いと感じる。
2015年初旬に全国ニュースを賑わせたIS(イラク・シリア間などでまたがって活動する過激派組織・イスラム国)が湯川春菜さん、後藤健二さんを人質にして殺害した事件では、中田氏はISと交渉をおこなった。湯川さん、後藤さん人質事件発生を受け、中田氏は自身の独自のつながりを使って交渉ができると宣言し、大きな話題となった。中田氏はイスラム国の司令官と連絡を取り合っていて、湯川氏の裁判を開くので通訳として来てほしいとの依頼までもが中田氏にあったという。中田氏は、外務省に協力を申し出たが日本政府には拒否された。そのようなことがあり、「2人が殺害されたきっかけを安倍政権が作った」と、中田氏は厳しく批判した。
中田氏は宮内春樹氏との会談において、「最後の預言者ナビィであるムハンマドの存在と、日本における預言者宮内氏の存在は矛盾せず、宮内氏についてイスラムの教えを日本で広める役割を担っていると認識している」と述べている。このように宗教家として高名である宮内氏の弟子・安室サラムさんは宮内氏の下でムスリムの活動をおこなっている。信仰と思想に拠って行動する若者のひとりだ。
■キリスト教への失望
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──(山口)いつからムスリムになられたのでしょうか?
安室 2014年の夏です。
──日本には色々な宗教を信仰する人がいますが、イスラム教は少ないように感じます。そんな中で、安室さんはどうしてムスリムになられたのでしょうか?
安室 わたしはもともとカトリックだったのですが、カトリックやキリスト教徒全体への失望、そして何より中田先生や宮内さんとの出会いで改宗しました。
──キリスト教徒への失望とは、具体的にどういったことでしょうか?
安室 たとえば、作家の曽野綾子さんや、同志社大学の学生時代に見た教授や牧師の息子などです。曽野綾子さんは先日の産経新聞での、アパルトヘイト(かつて南アフリカでおこなわれた人種隔離政策)など読めば、とんでもない考え方の人だと分かります。もちろんキリスト教でもいろいろな方がいますけどね。
(編集部注 曽野綾子氏は2015年2月11日の産経新聞に「労働力不足と移民」と題したコラムを発表。「日本の労働力補充のためにも、労働移民を認めなければならない」と主張すると同時に、「20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」などと述べ、各方面から批判を受けた)
──たしかに、あの曽野綾子さん記事にはキリスト教の人も怒っていました。南アフリカの駐日大使も抗議をしていました。有名な人間なので、キリスト教が誤解されて迷惑していると、私のプロテスタントの友人も言っていました。安室さんは同志社大学の学生だったんですね。学部では何を専攻されていたんですか?
安室 わたしは文学部哲学科です。いい想い出は少ないですね。同じ大学の牧師の息子などは、金持ちのボンボンで遊び呆けているだけでした。思想もなく、怠惰なだけで、自民党の駄目な二世議員と何ら変わらないですよ。同志社大学の教授には、学生にセクハラをする者や、学生運動という人間の権利である政治活動を弾圧したりする教員までいました。
──驚きです。
安室 同志社大学の教授は、中田先生の悪口をよく言っていました。他の学部の私の尊敬するジャーナリストの教授は、敵対する教授グループにセクハラ容疑をでっちあげられた挙句、不当解雇に追い込まれました。
──大学生活を送りながら、疑問を感じていたというわけですね。……続きは…