連載第2回 親指のない男
文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直
これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。
「どうした、おい。オレの顔になにかついているのか」
さすがにオーダーを聞いて、客の顔ばかり眺めているバーテンダーはいない。
男は、オレをギョロっとにらんだ。
「は、はぁ......」
男の鋭い眼力に、オレは言葉を失っていた。
「なんだ。言いたいことがあるなら、さっさといえ」
学生時代から、数々の修羅場をくぐってきたオレだ。だが、目の前の男には、なにもいえなかった。今、思いだしても情けない話だが、貫目が違いすぎたのであろう。
オレは完全に、男のオーラに飲まれていた。
「それとも、ケンカ売ってるのか」
男は、冗談めかしていった。
……続きは…